猫が目を覚ますと、花壇の中だった。
花を踏みつぶさないように気をつけて縁まで歩く。舗装された道路の上に飛び降りると、高台に位置する場所だったので、街が一望できた。
立ち並ぶ高層ビル。けれども決して無機的ではない、彼処に自然の息吹が見える風景。
美しい街だ。しかもそれは遠望だけではないらしい。舗装道路はまるでいま出来たばかりと思うくらい綺麗で、ゴミは一つもなかった。花壇の花は整然と並んでいて、鮮やかな花弁の色合いは行き届いた手入れを物語っている。しかもここは花畑や公園ではない単なる道端だというのにだ。
(素敵なところだな)
花に顔を近づけて、猫はふんふんと鼻を鳴らした。
先程から通りには多くの人々が行き交っている。例外なく気品を感じさせる顔立ちと身なりをしていた。
丈の合ったスマートな服装。それぞれに似合っている、けれども決して奇抜ではない髪型。身長に対して適切な体格。道行く老若男女全てがこれらを備えているのだ。きっと論理的でない文句を言う人や感情に任せて怒鳴り散らす人なんて、ただの一人も居ないだろう。そう思わせるほど理知的な雑踏だった。
(なんだか素敵な雰囲気だぞ)
静かな整然。猫が愛するものである。
機嫌良く猫は通りを眺める。ただ見ているだけで面白いのだ。自分を不快にさせるものが何一つ無いから。
そうしてボウと通りを眺めていると、ときどき人々の会話が耳に入ってきた。
「いい世の中になりましたね」「そうだな。頑張った人間が頑張った分だけ報われる。素晴らしい世の中だ」「生活習慣病や不況って言葉を、昔は何度も使ったそうですよ」「規則正しい生活と規律を守る精神、それに適切なワークシェアリングと税制を、皆が心がけるようになる前のことだね」「その頃は、頑張っても頑張っても報われない人が居たそうですよ」「逆に、頑張っていないのに私腹を肥やす役人が居たそうだ」「なんて不平等。ひどい世界だったでしょうね」「まったく」「しかし今は平等だ」「頑張った分だけ報われる社会。いや、我々は素晴らしい社会を作ったよ」「理想郷とはこの社会のことですな」
似たような言葉が、会話の中には多く含まれていた。
(頑張った人が、頑張った分だけ報われる社会なのか)
だから皆きちんとした服装をして、きりっとした顔で前を見て、道を歩いて行くのだろう。
パンツスーツを着た女性は腕時計を見ながら、余裕を持って仕事をこなしていると分かる優雅な足取りで道を行く。ブルーカラーらしき男性は同じ服装の仲間と歩きながら、より優れた建物を作るためのノウハウを提供し合っていた。リュックを背負った子供たちは誰かの詩をそらんじていて、お年寄りは技術の次世代継承について論じている。
通りを行く誰もが明確な目的意識を持っていた。
頑張って、そして頑張った分だけ報われて、歩いているのだろう。
(凄いなあ)
猫は素直に感心する。
異変が起きたのはそのときだった。
屑籠に腕とキャタピラがついたような形のロボットがどこからか何台もやって来て、いきなり一人の少年を取り囲んだのだ。
「なんだよ、来るなよッ」
少年は背負っていたリュックを振り回す。けれどもそのリュックは瞬く間にロボットに取り上げられ、少年は丸腰になった。顔を真っ青にして、少年はおしりから地面に倒れる。
「抵抗シタゾ」「馬鹿メ」「無駄ナコトヲ」「処分ハ決マッタノダ」「貴様ニハ下層ヘ落チテモラウ」
「やめろ、僕は頑張ったんだ。僕なりに、頑張ったんだぞ」
「関係ナイ」「我々ノ知能ガ判断スル事柄デハナイ」「我々ノ主ノ決定ダ」「逆ラウコトハ許サレナイ」
「やめろ、やめてくれぇッ」
少年の腰ぐらいの高さしか背がないのに、ロボットたちは易々と少年の手足を押さえつける。そして神輿を担ぐように持ち上げると、とんでもない速度で彼方へ去っていく。
「助けて、助けてぇッ」
後には尾を引くような少年の叫び声だけが残された。けれども、それもやがて消え去る。
通りは静まり返ったけれど、騒動から三十秒ほど経った頃には、元の整然を取り戻した。人々は再び歩き出す。
(今の子はどうしたのだろう。あのロボットは何だろう)
前足を眺めながら猫は考える。すると猫は頭が痛くなってきた。
(難しい話は嫌いだよ)
考え事なんて猫の仕事ではない。それに、人間社会のことなんて猫には関係ないことだ。この素晴らしい整然の中でもう一眠りしようと、猫は欠伸をする。
けれども眠りは妨げられた。
「オイ猫」
気がつけば猫の真横にあのロボットが一台居て、銀色の身体をぎらぎらと光らせていた。
「貴様モ下層行キダ」
(ぼくも?)
「貴様ハ惰眠ヲ貪ッテイル。頑張ル気配ガナイ。モット色々ナ物事ニ挑ミ、忙シク努力スル気ハナイノカ」
(忙しくだって? 何を言っているんだろう、ぼくは猫なのに)
「フン、目ヲ白黒サセルダケカ、能ナシメ」
(なんだと、このぼくを能なし呼ばわりするのか、金属め)
「アッ、引ッ掻イタナ、畜生メ。連行スル」
ロボットはエンマみたいな形の手で猫の胴体を掴むと、嫌がる猫を無視してキャタピラを回し、すごい速度で走り出した。
やがて胴体を掴んで持ち運ばれる屈辱と風圧による肉体的疲労とで猫がぐったりした頃、ロボットは路肩に設置されていた金属籠の前で立ち止まる。
巨大な鉄の籠だ。中には袋に詰められた大量のゴミと、汚れた身なりの人間たちが入っている。
「見テイロ。スリーポイントシュートヲ決メテヤル」
慣れた動作でロボットは猫を籠の上へと放り投げた。
かなりの高さまで投げられたので驚いたけれど、猫は咄嗟に足を地面の側に向ける。落下の衝撃に備えたけれど、籠の上部は柔らかな素材で出来ていたので、ちっとも衝撃はなかった。しかし摩擦係数がとても小さくて、おまけにすり鉢状になっているものだから、脱出できずに籠の中へ落ちる。そしてゴミ袋の山に沈み込んでしまった。
悪臭に鼻が痛む。息を切らしながら懸命に身体を動かして、猫は抜け出ようとした。しかしどうしても後ろ足が抜けない。
(なんだよ、なんだっていうんだ)
驚愕が落ち着くと、今度は段々悲しくなってきた。急に訪れた理不尽な出来事に、猫は泣きたくなってくる。
そのとき、猫の身体はひょいと持ち上げられた。
「大丈夫かい?」
猫を助けてくれたのは、先程数台のロボットに連行されたあの少年だった。
(大丈夫じゃないけどありがとう)
心の中で猫はお礼を言う。一瞬で少年のことが大好きになった。
少年は猫を持ったままゴミ袋の山を下っていく。そして鉄の籠の隅まで移動すると、そこに腰を下ろした。まだ比較的ゴミの臭いが薄いところだ。他の人間たちもみんな集まっているので多少窮屈だった。それでも誰一人暴れたりしていない。ただ澱んだ目をして座っているだけだ。
誰一人鉄の籠を上って逃げようとしないのは、籠の作りが砂時計みたいになっているからだろう。下部は鉄の網で作られているけれど、上部はさっき猫が滑った素材で、よじ登ったところで落ちてしまう作りだ。
「もう駄目だよ」
集っていた人間の一人、頬の痩けた男が呟く。
「頑張らなかったからさ。もう駄目なんだよ」
声は虚ろだ。そしてこの呟きに対する反論や同意は誰からも上がらない。全体の雰囲気がより重くなっただけだ。寒さに震える人々が更なる気温の低下を知ったときと似ている。怒鳴ったって仕方ないし、かといって納得できるわけでもない。ただうなだれるだけだ。ここにあるのはまさにそういった類の絶望だった。
(もう駄目なのか)
全体の空気に流されて猫も落ち込む。何が駄目なのかは分からないけれど、とにかく駄目なのだろう。
やがてしばらくした頃、鉄の網の向こうに例のロボットが一台、近づいてきた。没個性的だった他の機体とは違い、シルクハットを身につけている。しかし基本構造が円柱なので、被っているというよりも乗せているといったほうが相応しい外観だった。
「貴様ラハ害虫ダ。ヨッテ処分スル」
シルクハットロボットがそう告げた直後、猫たちが腰を下ろしていた地面がなくなった。どうやら下は地面でなく、機械式の落とし穴だったらしい。
「サラバダ害虫共」
手を振るシルクハットロボット。その姿が空の方向へ飛んでいく。
落下は永遠のように思えた。しかし実際には十秒ほどのことだっただろう。猫は四肢を地面側に向けたが、今度着地した場所もまたゴミ袋の山で、おかげで落下の衝撃はほとんどなかったものの、かなり深くまで埋まってしまった。
運良く四肢が固定されることはなかったので懸命に這いだし、猫は周囲を観察する。
広大な土地が広がっていた。遠方には山より太い柱が何十本も見える。空はなくて、代わりに鈍色ののっぺりした天井があった。
陽の光はどこにもない。けれども直近の太い柱から照射されたレーザーみたいな電灯のおかげで、日の入りから二十分後くらいの明度はあった。けれども慰めにはならない。猫は暗いのは平気だけれど、ゴミの腐臭はつらいのだ。
(元の場所に戻りたい。こんな酷い場所にはこれ以上居られないよ)
自慢のとんがり耳を掻く。しかしこの逆境を打開する術は思いつかなかった。
(なんだよう)
普通なら動くことも出来ないほどの悪臭なのに、鼻が馬鹿になってしまったのか慣れつつある。猫はそんな自分が嫌だった。なぜならもっと高貴でスマートで優雅な猫だと自負しているからだ。こんな場所に慣れてしまうような猫であってはならない。
(どうにかしてゴミのない場所に出ないと)
「あ、猫だ」
声がしたので猫は振り返る。何の偶然か、さっきの少年がそこに居た。不安で心細かったところに大好きな少年が現れたので、猫は喉を鳴らして近寄る。
「よしよし」
少年は猫を撫でると、硝子細工を持つような優しい所作で抱き上げてくれた。その手がぎゅっと猫を胸元に引き寄せたので、猫は少年も不安で心細かったのだと察知する。少年の心臓の音が聞こえて、ちょっとだけ不安が和らいだ。
悪臭の中を少年は進む。行くあてはないのだろう。何度も立ち止まって当たりを見回したり、ときどき立ち止まったりしながら、ちょっとずつ進んでいく。ゴミの山を登ったり下ったりしていると、やがて道のような場所に出た。一方が微かに明るい。少年は光源の方へと歩を進める。
三叉路に辿り着いた。
道が交わる場所には柱が立っている。点灯している電灯と、どこかから伸びたケーブルが絡んでいた。ケーブルが電線だとすると、あれは電柱なのだろう。
電柱の真下には木組みの箱が置かれていて、一人の人間が腰掛けている。
被っているのはシルクハットだ。電灯の明かりが影を作っているので顔は見えない。服装は拾ったものを端から全て着たような統一感のないもので、全体的に泥だらけだった。ひどい体臭を漂わせていて、ずっと身体を洗っていないのだと分かる。けれども分かるのはそれぐらいだ。男なのか女なのか、年齢はどれくらいなのか、そもそも生きているのか死んでいるのかも分からない。
猫はシルクハットにトラウマが出来ているので、とりあえず人間を睨み付けた。
「君も頑張らなかったようだな」
人間から反応が返ってくる。言葉は少年に宛てられたものだった。嗄れた声は男性のそれだが、年齢までは分からない。
「僕は僕なりに頑張ったよ。でも皆が言うほどは頑張れなかった」
少年は答える。
シルクハットの人間は笑った。
「頑張ったやつが頑張った分だけ報われる社会ってのはつまり、頑張らなかったやつを切り捨てる社会だ」
「ここは切り捨てられたものが集まる場所なんだよね?」
「そうさ。ここには全てのものが集まる」
「ゴミしかないよ」
「ゴミに見えているだけだ。食べ残した食料、着なくなった服、折れた傘、空き缶。でも飯は飯、服は服、傘は傘、缶は缶だ」
「そうだね。でも全てのものじゃない」
「今に分かるさ。連中は何もかも捨てる。言うことを聞かないペット、望まなかった赤ん坊、痴呆の進んだ老人、何もかもだ。そして君も」
「他は分からないけど、僕はゴミみたいだ。頑張らない人間は、社会にとって害なんだって」
「正論さ。そして君を捨てた。君は頑張らなかったから、いや、頑張れなかったから」
「言い訳は聞いてくれなかったよ」
「そりゃあそうだ。例外を許せばシステムは脆くなる。法律書がかつて分厚かったのはいちいち例外についての対処を書いてたからだ。だから隅まで読むやつは居なくなって、そうすると規律を守る以前に規律自体を誰一人として覚えなくなる。本末転倒だ。だから例外は許されない」
「貴方は何が言いたいの?」
「ここは別れ道だ」
両手を上げて、シルクハットの人間は二本の道を示す。
「君から見て右の道を進めば集落がある。掃きだめを漁ってなんとか生きてる連中のねぐらだ。合流すれば長生きできる。だが左には何も無い。ただ君がいま来た道と同じ道が延々と続いている」
「貴方の言葉を借りれば、左には全てがある」
「そうだ。死も含めて全てな。だから考えろ。私はそのための材料を提供する」
上げていた両手を降ろして、シルクハットの人間は顔を上げた。
しかしそこに現れたのは、驚きに固まった少年の顔。シルクハットの人間は顔が鏡になっていたのだ。
「その顔、貴方は、人間なの?」
「人間だとも。だから語る。君は上の世界を平等だと思うか?」
現れた鏡の顔に困惑しているのか、問いの答えに迷っているのか、とにかく少年が再び口を開くのには若干の時間を要した。
「思わない。だって僕は頑張りたくなかったわけじゃないもの。でもこんな目に合った」
「その答えは間違いだ。上の世界は平等だよ。極めて公正な平等が上にはある。なにしろ、頑張ったら頑張った分だけ報われるんだ」
「頑張れない人も居る。あるいは、本当に頑張ったけど基準に届かなかった人も居る」
「それはとどのつまり、どっちも頑張らなかったやつだ。頑張っていないのだから、報われないのは当然だろう」
「頑張っても成果が出ない人も居る」
「そんなやつが居ない世界が、上だ。それは大前提のルールだから破られない。頑張ったやつは必ず、頑張った分だけ報われるんだ」
「僕は、僕なりに、頑張ったんだ。基準に届かなかったのはいい。でも僕なりの頑張りに対する報酬を受け取っていない」
「君は頑張ってなんかいない」
「僕なりの頑張りに対する報酬の話だッ」
「その僕なりの頑張りとやらは、実際、どれだけの頑張りだ?」
「それは」
「休日に遅くまで寝ていなかったか? なんとなくテレビを見ていなかったか? 長々と風呂に入ってたんじゃないのか?」
「余暇だよ、それは。頑張るための休養だ。誰だって取っている」
「何を根拠にそう言える? 君は他人が影でどれだけ頑張っているか知らないだろう」
「休まない人なんか居ない」
「頑張らなかったやつを切り捨てる社会においてもか? 頑張りを止めたらここに落ちるんだ、誰もが必死になる。飯、風呂、排泄、睡眠、削れる時間は全て削って頑張り続けるやつだって少なくないはずさ」
「僕は、僕は」
少年は反駁しようとしていたが、出来ずに口ごもった。
沈黙が数秒。
「僕はそんなに強くない」
再び開いた少年の口から出たのは、哀愁の滲んだ吐露だった。
「君は頑張れなかった」
「そうだよ」
「けれどもそれは君だけではないんだ。だから終わりはそう遠くない。このままいけば近いうちに人類は滅亡する」
「どうして?」
「人間は基本的に弱い。それを忘れているからさ」
電灯がちかちかと明滅する。
鏡に映った少年の顔が、不安げに揺れた。
「害虫になりたくなくて頑張り続ける。何かのために頑張れる内はいい。しかしそのうち頑張ること自体が目的になる。だがそれでは何をどう頑張るべきかが分からず、結局頑張れなくなる。落ちてくる人間は増えたよ。ここ数年で急激にな。多くの頑張りが文明を進化させた結果、生きるために必要な全てが揃った後には、もう死に物狂いで頑張れるような目標は少ないんだ」
「それが平等の行き着く先なんだね」
「違う。これは過渡期だ。やがて本質が現れる。君はこれが続いたらどうなると思う?」
「どんどん人が落ちてきて、上から人が減る」
「そうだ。そして維持できなくなったシステムは崩壊する。次に来るのは無秩序だ。頑張っても死ぬかもしれないし、頑張らなくても生き長らえられるかもしれない混沌。けれども平等だ。誰もが平等に不平等を生きる」
「平等になるためにシステムを作ったのに、そのシステムが壊れた後が、本当の平等だって言うの?」
「ああ」
「おかしいよ。ならシステム自体が間違っていたってことじゃないか。でも貴方は上の世界が平等だって」
「システムは合っている。ただ本質を取り違えただけだ。壊れることまでシステムの一部なのに、それを見ていない」
「壊れることまでシステムならどうしてそんなシステムを作ったの? 作らなければよかったじゃないか」
「それなら、左の道を行くといい」
「え?」
「いずれ死ぬなら生まれたことも無意味と考えるなら、これ以上生きる理由もないだろう」
少年は口を噤んだ。
シルクハットの人間は続ける。
「だが生まれた意味を知りたいなら、右の道を行くといい。生き長らえればおそらく見られる。仮初めの平等がいずれ本物に変わった後、さらにその先にある、求める答えを」
「不平等という平等の、その先?」
「ああ。そのときになれば、君も知るだろう。全ては同じ解なんだ。私と君の違いさえ」
「貴方の顔には僕が映っている」
「それにも、意味があるのさ」
「貴方は誰なの?」
「君ではない。それは確かだよ。話は以上だ」
シルクハットの人間は再び俯く。鏡の顔は影に隠れた。
少年はしばらくその頭をじっと見つめていたけれど、やがて視線を切って、二本の道を眺めた。
集落へ続く右と、何も無い左。
逡巡の後、少年は右に進んだ。三叉路を去る瞬間、シルクハットが幽かに揺れたのを猫は見た。
しばらくも歩かない内に集落へ辿り着く。人々は皆みすぼらしい格好だったけれど、温かい笑顔は素敵だった。少年と猫は雑然と張られたテントの一つに案内される。疲れた身体を休めるために、さっそく猫は身体を丸めた。
眠りの直前、猫はさっきの会話を思い返した。
内容はほとんど聞き流していたので、思い返せる事柄は一個だけ。それは、全ては同じ解なのだという、耳に残った言葉。
もちろん思考は長続きしない。考え事は嫌いなのだ。それにとても疲れている。だから瞼を閉じたらすぐ、猫は眠りに落ちてしまった。