古今東西の人々や動物たちと出会い、成長する、一匹の猫の物語。

(全20話)

01 北極星みたいな猫

猫が目を覚ますと、世界は渦巻きになっていた。 位置も時間も温度も大気圧も、目まぐるしく変わっていく。その中で形を変えずに存在しているのは猫だけだった。 景色が流動的に動いている...

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02 旅立ちを見送る母

猫が目を覚ますと、すぐ近くに海が見えた。 渦巻きの世界はどこにもない。時間も空間も温度も大気圧も一様、あるいはなだらかにしか変化していなくて、よく知る地球と何も変わりなかった。 ...

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03 古びた靴の思い出

猫が目を覚ますと、なんだか嫌なにおいがした。 つんとする汗のにおいだ。鼻の奥で土色のこびとがツルハシを振るっているよう。くしゃみしそうになるのを堪えながら、猫はふらふらとその場を...

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04 非科学的な科学者

猫が目を覚ますと、誰かの手に身体を掴まれた。 「きちゃない猫はお風呂に入れましょう」 舌っ足らずな女の子の声だ。猫は瞬時に危機を悟ったけれど、もう遅かった。宙を舞う無重力感の後...

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05 ねむねむさん現る

猫が目を覚ますと、山より高い本棚が見えた。 とてつもない量の本だ。横幅およそ五メートルほどの通路を挟んで、てっぺんが見えないほど背の高い本棚に、隙間なく本が詰められている。てっぺ...

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06 クリームがお好き

 猫が目を覚ますと、森の中だった。 鬱蒼と木々が茂っている。湿り気を帯びた空気は葉の合間から差し込む陽光で、じっとりとした白に染め上げられている。 大きく欠伸をしてから身体を...

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07 総理大臣の秘め事

 猫が目を覚ますと、執務室に居た。 絨毯はふかふかだ。執務机の裏には巨大な旗が立てられている。キャビネット、八つのソファ、ローテーブル、ラックといった家具が並んでおり、小規模な...

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08 開拓するものたち

 猫が目を覚ますと、馬の背に居た。 夜の冷気の中で、馬は蒸気のように体温を放出している。走り終えてからそう経っていないのだろう。接触しているお腹が蒸れるのが嫌で、猫は馬の背から...

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09 少年よ素直であれ

 猫が目を覚ますと、少年と少女が並んで歩いていた。 どちらも十代中盤の面立ちだ。少年は詰め襟を、少女はセーラー服を着ていて、二人とも紋章が入った鞄を持っている。どうやら学校から...

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10 貴方を想う星月夜

 猫が目を覚ますと、講義室に居た。 広い部屋だ。半分に切ったすり鉢みたいな間取りで、中央の一番低いところに教卓がある。その周囲を半円状の細い机が取り囲んでいて、総勢二百名近い人...

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11 真に平等な理想郷

 猫が目を覚ますと、花壇の中だった。 花を踏みつぶさないように気をつけて縁まで歩く。舗装された道路の上に飛び降りると、高台に位置する場所だったので、街が一望できた。 立ち並ぶ...

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12 群青色の合わせ鏡

 猫が目を覚ますと、落下していた。 空気抵抗を肌で感じる。どこを落下しているのかは不明だけれど天気はいい。しかし重力加速度に従ってぐんぐん落下速度が上がっているので天気の良さな...

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13 ベテルギウス静か

 猫が目を覚ますと、墓標と黒い服が見えた。 芝生の上には数多の墓石が等間隔に並んでいる。敷地面積に余裕があるためか、一つ一つの間隔は広い。猫が居るのは隅の一角、大勢の男たちが集...

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14 ねむねむさん再び

 猫が目を覚ますと、ねむねむさんの腕に抱かれていた。「久しぶり、猫さん」 少年しか持ち得ない無垢な笑みが猫に向けられる。けれどもやっぱり、ねむねむさんからは生き物の気配がしな...

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15 キリンの樹の上で

 猫が目を覚ますと、埃っぽい風が喉を流れた。 ドライフードから旨味と質量を取り除いたような空気だ。猫はげんなりする。潤いたっぷりの生き餌が好物なのだ。カリカリは嫌いじゃないけれ...

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16 はじめての友だち

 猫が目を覚ますと、二匹の子どもジャガーが居た。「こんなところに」「猫が居るぞ」 嬉しそうな声で子どもジャガーらは跳ね回る。 あたりは密林だ。茂った木々はとっぷりと黒に浸か...

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17 クオリアペンギン

 猫が目を覚ますと、喫茶店に居た。 瀟洒なオープンカフェだ。テーブルと椅子が整然と並んでいる。しかしどれもサイズが違っていた。人間が座るに適したサイズのものから、猫の座る席のよ...

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18 ねむねむさん去る

 猫が目を覚ますと、ねむねむさんは言った。「さよならを言いに来たんだ」 てっぺんの見えない本棚の間。一人がけのソファに腰掛けたねむねむさんは、床の上に居る猫を見つめる。 水...

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19 綺麗な猫の多い街

 猫が目を覚ますと、石畳の上に居た。 曇った夜空が正面に見える。丸まっている状態ではなく、仰向けの状態で眠っていたらしい。猫は身体を起こす。石畳はひやりとしていた。 住宅街だ...

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20 北極星みたいな鵠

 猫が目を覚ますと、花畑の中に居た。 濃霧が立ちこめている。白い大気を背景にした花弁には水滴が付着していて、色彩をより煌びやかに魅せていた。 身体は痛くない。猫は立ち上がって...

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