『ヨコハマ買い出し紀行』芦奈野ひとし(1994~2006)

引用元:Amazon.co.jp

 死ぬとき棺桶に入れたい漫画のうちの一冊、『ヨコハマ買い出し紀行』です。

 世の中にはいろいろなフェチがありますが、わたしはアンドロイドフェチです。

 アンドロイドの魅力は以下の3点。

  ・美しい(あえて醜くつくる必要がないため、大抵美しい)

  ・死なない

  ・心(感情)がない

 何かを語るときは、その何かを「持つもの」と「持たない」ものを並列させると、物語としてまとまりがよくなります。ですので、アンドロイドが登場する物語は、必然的に「美」「心」「命」がテーマとなります。意図しなくとも、テーマとして生じてしまうのです。

 ヨコハマ買い出し紀行は、このうち「死なない」という点にフォーカスが当たっている作品。

 物語世界は劇的な環境変化によって都市機能が崩壊、都市ごとのつながりが断絶している時代、という設定です。そのなかで、かつて製造され、特別なメンテナンスをしなくとも半永久的に稼働するアンドロイドの『アルファさん』が、ある日突然出ていった持ち主、『喫茶店のマスター』を、喫茶店の番をしながら待ち続ける物語。

 年々上昇する海面、減った人口、足りない物資、とこの世界はゆるやかに死んでいっています。

 その世界を、人類の夕暮れにたとえ、『てろてろの時間』と表現し、アルファさんは静かに眺めます。

 物語設定は確実にディストピアものなのですが、そのなかで息づく人々は、そのなかでも楽しみを見出して、できる範囲で楽しくやっている。

 人間のたくましさや、それでも少しづく変わっていく、終わっていくもの悲しさ。そういった、忙しく生きる現代では見逃しがちな要素をパッケージした作品なのです。

 いってしまえば、アルファさんを定点撮影するカメラとして置き、『ヒトの営み』を撮影した作品。

 読んだ後、読む前より、人間の住む世界のことがほんの少し好きになっている、そんな素敵な作品なのです。

 

 自己否定的な気分に陥って、落ち込んでいるときに読むと、処方箋としていいかもです。

映画の話

前の記事

2020年アカデミー賞
Blog

次の記事

無知の知