無知の知

 もりもり小説を書いているわけだが、新しい作品を書くときは毎回、なにかしら資料を買っている。

 手持ちの知識で書ける題材を選定すればいいようなものだが、そもそも手持ちの知識が脆弱なので、勉強するしかないのである。

 いまは日本の水について調べている。

 年間にどれだけの量の水を使っているのか。用途は? 各分野における使用割合は? 貯水方法、干ばつ時の備え、改善すべきポイント、諸外国との違い、なーんにも知らないのである。

 毎日当たり前のように浴びている水のことすら何も知らないのだから呆れる。

 エアコン修理の仕事をするまでは空調機の仕組みがよくわかっていなかった。だから冷房や暖房が嫌いだった。なんか身体に悪い気がしたからだ。原理を理解するとむしろ使うようになった。

 これを読んでいる皆さんは炊飯器の原理をご存じだろうか。電子レンジは? トースターは? そもそも電機が具体的にどう作られてどう蓄電されて、どういう経路で自分ちまで届いてるか、知っていますか?

 新型コロナウイルス、COVID-19のニュースが連日流れている。

 PCR検査をする臨床検査技師の人数が足りず、にもかかわらず検査しろと訴える人が後を絶たないため、大変なのだという。

 学生の頃、生体高分子を研究していたので、わたしは何度となくPCRをやった。装置に入れたら学食行って飯食って、でも繰り返し回数を25回とかにしていたから、帰ってきても終わってなくて~という日々が懐かしい。このくだり、PCRがどういうものか知らない人にはまったくピンとこないと思う。

 そんな私だが、プロの現場でどのようにPCRが行われているのかはまったく知らない。

 設備の数は? 作業人員は? 理論上の検査可能数と、実質上の検査可能数は? クレームや雑務で手が止まる時間は何分? 休み時間は? 飯は食えてる?

 忙しい現場ほど、その忙しさは外からわからない。忙しさを発信する間がないからだ。

 ぼくは何も知らない。そのことを常に、ちゃんと心に留めておきたい。なにしろ頻繁に忘れるからね! いろんな人に無礼を働いてきてしまったので、本当に『無知の知』は大切にしたい。