スパイダーマン:スパーダーバース(2019)

 「面白さ」という鈍器で殴られる二時間だった。

 もともとスパイダーマンは好きだったけれど、熱心なフォロワーではなかった。映画もトビー・マグワイア版の1と2しか観てないしね。なぜならトビー・マグワイア以外のピーター・パーカーはなんか陽キャっぽいからだ。見た目が。ピーター・パーカーは陰気なやつであってほしい。トビー・マグワイアの陰のあるイケメンっぷりが「映画的な陰キャ」としてはぴったりだった。あとトビー・マグワイアが好きだ。『シービスケット』観てみ? まじ格好良いぜトビーは。

 さて。

 今回、面白すぎてやばいというツイッターの情報を素直に信じてスパイダーバースを観に行った。IMAXで観るべきというのでIMAXで観た。

 忠告は聞くものだ。おかげで最高の体験だった。

 スパイダーマンは十代の少年が主人公である。アメコミの中では異色だ。あっちでは「精神的に未成熟な子どもに世界の命運を託すべきではない」という至極まっとうな倫理観があるので、アイアンマンしかりスーパーマンしかりバットマンしかり、どのヒーローも大抵、おっさんである。

 だからスパイダーマンはあんまりヒーローらしくない。

 迷い、悩む、葛藤だらけの、手にした力をうまく使うことさえできない少年。

 それがスパイダーマンで、それが彼の魅力だ。もがいて、苦しんで、それでも自分にできることを信じて跳ぶ彼の姿は、観ているぼくに勇気を与えてくれる。「ぼくは跳ぶよ。君はどうだ?」そう問われている気がして、背筋が伸びる。

 加えて、どこまでもエンターテイメントなのだ。人間には不向きな縦方向の移動を難なくやってのけるが故にできあがる、他の作品ではまず見ない、縦横無尽にニューヨークの摩天楼を飛び交うショット。最高にクールだ。あの映像だけでスパイダーマンだとわかる。あれを観たくて観客は劇場に向かう。

 さてスパイダーバースだが、今作の主人公はマイルス・モラレス。アフリカ系アメリカ人とプエルトリコ人のハーフ。ブルックリンに住む13歳の少年だ。

 ひょんなことから遺伝子操作された蜘蛛に噛まれ、スーパーパワーを手に入れる、お約束の冒頭から物語は始まる。しかしその後、敵がとある目的のために時空をぶち壊したために事態は急変。お約束の流れはどこへやら、彼のいた世界のピーター・パーカーは死亡し、並行世界からはピーター・B・パーカーをはじめとする「並行世界のスパイダーマン」たちが集結する。

 そう、今回の主人公マイルスには、ピーター・パーカーという「スパイダーマンとしての先輩」が存在する。

 スーパーパワーを手に入れたのに、彼は無力だ。ピーターのように強くなく、自分の特殊能力も思うように使えない。

 敵がいて、闘いたいのに、パワーもあるのに、上手く使えなくてどうにもできない。そんな彼を待っているだけの余裕もなく、並行世界からやってきたスパイダーマンたちは彼を置いて敵を倒しに行こうとする。マイルスにとっては屈辱の、惨めなシーンだ。

 おまえは待ってろ、という並行世界のスパイダーマンたちに彼は訊く。

「いつまで待てばいいんだ」

「待つんじゃない、跳ぶんだ」

 そう答えるスパイディの格好良いこと!

 いいからIMAXで観るんだ。まだ間に合う。無理でもせめて劇場で観るんだ。おれはパンフ買ったぞ。アメコミも買った。あとスパイダー・グウェンのコミックも買った。可愛いし格好良いし最高でしょマジで。片側刈り上げたあの髪型よかったな。

 今作で間違いなくハマった。明日から過去のスパイダーマンを見返す予定。

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