ペングロイド
作品は作者のものでもあり、読者のものでもある。そう考えるので自作について言いたいことは特にない。大体、あったら作中に書いている。読者には好きに読んでほしいし、好きに感じてほしい。
とはいえ一方で、日頃は読者であるぼくにとっても、『作者の話』というのは面白いものだ。どういうところから着想を得たか、どんな手法でつくったか、こだわった点はどこか、インタビューなどで語られるそれらは作品に奥行きを与える。「へえ、なるほど、気付かなかった。もう一回作品を読んでみよう!」となることも多い。
というわけで自作について話す。
ペングロイドは出発点が『郵便鞄を持ったペンギン』というイメージからスタートした。イメージだ。ストーリーではない。コンクリートの上を、一羽のペンギンが郵便鞄を引きずりながら歩いており、こちらに気付いて「やあ」と手を上げる、そんなイメージからスタートした。
なんでそんなイメージが浮かぶのかって、そりゃあんた、おれっちは昔からそういう夢見がちな人だからでやんすよ。
さて、そういうわけでイメージが浮かんだので書くことにした。主人公はペンギンだ。仕事は郵便配達。 ということは知能がある。たぶん喋るだろう。
どんなストーリーにしよう?
ポップじゃなきゃ駄目だ。なにしろ主人公が人間じゃない。これで尖ったストーリーにしたら誰も付いてこれない。というかおれが付いていけない。『ペンギンによる水深三〇〇メートル以下での魚影探知の苦難と成功』とか、やれなかないけど面白くなさそう。
シンプルに愛についての話にしてやろうか。
だが、うーむ。そうするとペンギン同士の愛か? ニッチすぎる。それにぼくはケモナーではない。かといって『小さな命と女の子の、心温まる物語』といったジャンルに反吐を出し続けてきた人生である。あんまりこう、人間と他の種族の生物をハートフルに描きたくない。
よし、人間とペンギンはやめよう。
アンドロイドとペンギンにしよう。『ヨコハマ買い出し紀行』と『ペルソナ3』を通ったからアンドロイド大好きだしな!
アンドロイドいえば心だ!
ペンギンとアンドロイドによる、郵便局が舞台の、心についての物語だ! うひょー! 書けるでえ!
……となってから大体、二年半くらいかけて書いたのが『ペングロイド』である。仕事に追われていたため、書き上げるまでかなりかかったが、それだけに満足している。
心というものについて多くを考えながら書いた作品だ。
心なんかなければいいと、そう思うことがよくある。仕事で失敗して、怒られて、恥ずかしさと情けなさで翌日会社に行きたくないのに、行かざるをえないから行くときの、家の玄関を出る瞬間に。あるいは、妻と喧嘩になったとき、自分が悪いのに、謝らないといけないのに、意地を張って謝れないときに。
あらゆる作品で「心は素晴らしい」と語っている。
そうだろうか?
本当にそうだろうか?
腕を組んでうんうん言いながら、自分なりに考えた結果が、『ペングロイド』には詰まっていると思う。
さて、こうして書き上がった『ペングロイド』だが、当初はいくつかの文学賞に応募していた。が、どれにも引っかからなかった。「面白いと思うんだけどなあ」と首をひねりながら、お蔵入りさせた作品である。
それがあるとき飲み会で友人から「自費で製本して売っちゃえばいいじゃん!」と励まされ、デザイナーを紹介してもらい、イラストが付いて、紙の本として完成した。また、並行してぽちぽちと電子化し、電子書籍としても完成した。(それらの詳細はこちら)
慣れない製本作業により関係各位には多大な迷惑をかけてしまいました。申し訳ない。おかげさまで大変いい本に仕上がりました。
素敵なデザインを施してくれた砂田智香様と、美しいイラストを添えてくれたzinbei様に、この場を借りて心からの感謝を捧げます。
最後に。紙書籍版だけの特典として、カバー裏におまけを用意しております。できたら読了してから見てほしい。この本を手に取ってくれたあなたがより楽しめるように考えて付けました。よろしく。