微熱
三十七度に達するか達しないか程度の微熱が治らない。ここ三日ほどはこんな感じだ。
本職が肉体労働なので、体調が悪いと命の危険が高まる。よってわりと早い段階で休む/休まないを決めるのが常だが、微熱だとそれも難しい。
明日には良くなっているだろうと持ち前の楽観主義を発揮して、気にするのをやめる。
仕事は本来、生活の一部だ。
生きるために働く。それが本来の形だったと思う。けれどもどうも、今は変わってしまったようだ。仕事に行くために家を出ると、「ここから先は本来の自分ではない」「楽しいとか悲しいとかつらいとかの感情は置いておく」というスイッチが自然と入る。入りにくい日は、職場への道すがら、気合いで入れている。錆びたコックをひねるように。
目的と手段は、とかく入れ替わりがちだ。
体調が悪いと、そんなことばかり考える。
よって体調が悪くても、一日に数回は意味もなく尻を振りながら家中を練り歩く。おかしな行動をすることで、自分自身を笑わせるためだ。
妻はそんな私を見て、「風邪なのに……」と呆れている。しかし止めはしない。八年以上の付き合いだ。彼女も私のことはよくわかっている。
無我夢中で尻を振りながら、「嗚呼、世の中のサラリーマンよ。あなたがたも皆、こうなのか?」とふと疑問に思う。
もしもむかつく上司や、嫌味な先輩や、ため口をきく後輩が、私と同じように悩み、苦しみ、風邪を引けば尻を振っているとしたら。私は明日から、彼らに優しくなれるだろうか?
答えはノーだ。
尻なんか振ってないで寝ろ、大人が馬鹿やってんじゃねえ、きもいぞ、と思う。