スケッチ 1

 ひどく寒い夜だ。けれども息を吐いても白くならない。気温はそこまで低くないのだろう。実際、寒い夜だが、昔のほうが寒かった気がする。

 寒いのに冬らしさを感じないのはなぜだろう。思えば冬らしさは「白さ」に起因している気がする。この暖冬で、東京住まいとなると、雪も拝めず、吐息も煙らない。

 星は見なくなった。職場まで徒歩で通っているのに、帰るときはいつも正面と周囲を見ている。事故を起こさないようにだ。埼玉の実家に住んでいたときは、よく空を見て歩いた。車が大して通らなかったし、心に余裕もあったのだろう。

 映画を一日に何本も観られるようになったのはいつからだろう。昔は映画をはしごなんてできなかった。一本観たら、その余韻から抜けられず、他の映画なんてとても観られなかった。

 嘆いているわけではない。

 ただ、淡々と、自分は変わっていくんだな、と思っている。

 変わり方は選べない。なるようになるだけだ。コントロールできるほど人生は優しくないし、抗えるほど強い自分でもない。それでいいと思っている。

 枯れ木を横切る。建てかけのマンションが見える。むき出しのコンクリートと繋がれたばかりの電線、配管。野良猫が二匹、駐車場の車止めの上にいる。夜のうちに外に出されたルール違反のゴミ袋。へこんだガードレール。折れた傘。遠くにセブンイレブンの明かり。

 人工的なものを汚いと切り捨てるのはもったいないと、私は思う。

 作っているのは結局、人だ。そこに個性がある。均質に見える町並みは、均質に見せようとした人々の努力によって成り立っている。

 東京は汚いか?

 とりとめもなく、日々の心象をつらねる。いうなればスケッチだ。ときどき書き残そうと思う。

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